ボクのこだわり(10)天からの声が響く。
妻の介護をするようになって4年弱、これまでのボクなら講演や講義で「忙しく飛びまわっている」ことで、何らかの達成感を持っていたのですが、日々の介護が淡々と続いていくなかで、閉塞した空間の中にも、新たに見えてくる世界があることに気づきました。
自動車免許を持ったことがないため、高級車に乗るという趣味など持てるはずもなく(乗りたいとも思いませんが)、美食家でもなければ夜の街に飲みに行くことは皆無、ゴルフはしたことがなく、野球はルールも知りません。
そんなボクでも、(アクリル絵の具や油彩で)絵を描くこと、パラゴンというスピーカで音楽を聴くこと、本を読み、執筆すること、講演会に呼ばれて話すことなど、いくつかの関心領域があったのですが、それが単なる趣味や仕事ではなく、今の日々を、まるで「天からの光が降り注ぐかのように」支えてくれることに気づきました。
あたりまえのように聞いてきたサイモンとガーファンクル、吉田拓郎、中島みゆき、さだまさし、平原綾香、竹原ピストル…、
よく知っているはずの朝比奈隆(大フィル)のブルックナー7番も初めての曲かと思うほど、違って聞こえます。
何だ?これは…。これまで介護でガチガチだったけど、改めてこんな日々にこそ、音楽がとてつもない「救い」や「支え」をわが身にもたらしてくれます。
コンサートに行けず(妻の食事の買い出しのため)クラシックはマチネー(昼間の公演)しか行けません。せめてCDを聞くときにはイアホンではなく、スピーカーから音を出して聞いています。今の気持ちがそうさせるのでしょうか、これまで聞こえてこなかった歌詞の意味、作曲家、演奏家が伝えたいメッセージが、新たな光のシャワーのようです。
介護者となってからは、また18歳の頃のようにたくさんの本を読むようになり、介護で最も絶望していた時に原田マハさんの著作にはまり、数々の作品に救われました。
そうすると不思議なことに自分が執筆しようとしている論文や本の文章も、自分が書いているというより、言葉が降りてくる感じになって。今、連載させていただいている朝日新聞デジタルの医療面(アピタル)のコラムがそうです。
講演会で話すときも、ボクが話すというよりもメッセージが出てくる、といった感じになっています(こんなことを書くと「あいつ、もうすぐ昇天するんじゃないか」とか 「カルトに行くのか」とか誤解しないでくださいね)。
娘や息子がいろいろと手助けしてくれたからこそ、こうして4年の介護が続けられました。それほどの支援があっても、仕事しながら介護者も演じるのは大変!でも、それをさらに支えてくれるのが、音楽や文章から出てくる新たなメッセージです。
絵を描く時間は残念ながら多くありません。もともと多く描けるタイプではなくて、最も時間をかけて書いている代表作の「胎児」の絵は1994年から2017年までかかってしまいました(笑)。時間をかけてじっくり歩くお遍路のような作業なのかもしれません。これまでに描いた約20点、どこかで個展をひらくのが夢です。え、そんなことする時間があったら患者さんを診ろって?もうこれ以上かんべんしてョ。
本年度のブログ(ボクのグチ)はこれでおしまい。新年度からも、またよろしく、ね。