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ものわすれブログ

日々のこと(8)足すのか引くのか


 医者にはそれぞれ薬の処方について自分なりの「やり方」があります。ボクは小さいころから母が診療所内にある薬局で調剤しているのを見ながら、そこで「薬屋さんごっこ」をしていたような非ワイルド系でしたので、なんとなくその50年前の雰囲気を医者になっても引きずっているのかもしれません。診療室があり、カーテンを隔てた横の部屋が調剤室という昔ながらの「街の開業医」の風景です。皆さんの中にも診察室の隣にすりガラスの薬を出す窓があった医療機関のイメージを思い出す人がいるかもしれませんね。

 医者になって医局に残って臨床経験を積み始めたころ、ボクが属していた精神科での処方は多剤併用の時代でした。「カクテル療法」とでも言いたくなるほど、たくさんの薬を混ぜていた記憶があります。今はできる限り単剤処方(ひとつの種類だけ)に努めていますが、こちらが減薬しようとすると不安になり、「先生、やっぱり薬は減らさないください。減ったら調子が悪くなります」と、こちらの減薬の申し出をことを断り続ける人もいます。

 ボクの診療は認知症についてのみ当院で担当、身体各科の処方はそれぞれの先生が処方されるものに合わせるようにしていますが、どうしても認知症(若年性を除けば)は高齢者が多く、薬の副作用や多剤の場合の相互作用が出やすいのが特徴です。内科や整形外科などの複数医療機関からそれぞれ処方されている場合には、薬が10種類になることもあり、このような場合には当院からの処方はできるだけ「なし」にするようにして、全体での処方は引き算にするようにします。現在、ボクの外来診療は毎月800人ほどの人が来院され、登録者全体では1000人ほどですが、そのうち200人程度の人は「当院から処方なし」という状況です。

 医師である以上、自分の処方には自信をもって正確に薬を出すべきですが、ボクは医者として「ビビり」のところがあって(医者のブログでこんなこと書いて良いのかな)、症状が増えるたびに薬を出して、しかもその薬の副作用止めも出すことはしません。足し算ではなく、むしろ必要最低限の処方量で種類も少なくしたいと思っています。

 加えて処方量の増減には自分でも「マニアックだな~」と思うほど微調整します。1錠の次は2錠になるのではなく、1錠でダメなら1.5錠あるいは1錠と4分の1にすることなど、日々の臨床ではビビりながらやって来た25年です。でも一方では薬の処方は国が決めた約束通りに処方することが基本です。勝手に保険適応外の処方をしたり、容量を守らないことは科学的なエビデンス(実証)に基づいた科学的な医療とはいえません。この2つを何とか両立させながら、昔の母の調剤室の思い出のような微調整ができないものか、日々悩んでいるところです。

 新年度から朝日新聞(デジタル版)で認知症に関するコラムを執筆させていただくことになりました。毎月掲載です。ブログももちろん続けますが、少し掲載のスピードが落ちるかもしれません。え、書く暇があればもっと診療しろって? ごもっともですが、ボクにもペースがありまして…。


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