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ものわすれブログ

日々のこと(7)別れること


 数年前から始まったように感じる急激な天候変化は、夏の突然の豪雨、冬の大雪などこれまで私たちが経験したことがないほどの環境変化をもたらしています。骨折や慢性関節リウマチなど、体の痛みや硬さなども天候変化の影響を受けやすいものですが、認知症の人の状態も脳の変化がある程度進んでいる人の場合には思ったよりも影響を受けやすいものです。低気圧が近づいてくるときや前日と比べて気温の差が大きかった時など、いつも注意して診療するようにしているほどです。でも、ボクがあまりにも天気の話ばかりするのは自分が自律神経の調整をする際にそれらの条件がとても大切であるから、いつの間にか身に着いたスキルなのかもしれません。

 ここ数年の天候変化の激しさは、何年もともに人生を過ごして診療所に来てくれた多くの人を奪っていきました。この25年間の診療の中でも、昨年秋から今年にかけての変化で、多くの認知症の人が脳血管障がいも起こして亡くなりました。医師としてよりも、共に人生を送る仲間を失った気がします。

 診療所は今でこそ「ものわすれクリニック」だけにしていますが、かつて母が内科医としてボクが精神科医として終末期の往診による「エンドオブライフ(終末期)の看取りもしていました。今では在宅療養支援診療所の先生にお願いしていますが、年明けから何人もの長年のお付き合いがある家族から連絡をいただきました。「ありがとうございました。母は12月30日に亡くなりました。」という電話、そしてわざわざ挨拶に来てくれる家族も。

 かつて認知症の人を見送った介護家族(遺族)を対象に、「あなたが介護で後悔していることは何ですか」と問いを投げかけた調査をしました。うちの診療所に来院しておられた患者さんの遺族125名が答えてくれました。そのうち32名(26%)の答えは「選ぶ医療機関を間違えた」という答えでした。一生懸命にサポートしたつもりでも、やはり「もっと別の良い医療機関に行っていればよかった」と悔やむ家族がいました。反省しきり、です。その人々の思いはこれからの医療に生かしたいと思いました。

 最も多かった答えは82例(65%)でしたが、その答えは異口同音に「私は介護家族として、何もできなかった」というものでした。とんでもありません。担当した医者としても十分すぎるほど介護をし尽くした介護者でした。それでも遺族となった介護家族は「もっと良い介護ができたのではないか」と自分を責める発言をします。それゆえ、ボクは認知症の遺族ケアを大切なことだと思います。もしかすれば介護に費やした何年もの期間が実りあるものとして良い記憶になるか、それとも自責の日々になるかを左右するのは、遺族となった彼らに向けられる周囲の言葉次第なのかもしれません。「よくやった」と言って正しく評価することで、遺族となった家族のこころは次に向かう力を持つのかもしれません。

 妻の夕食の買い出しを終えて帰宅する直前に、ひとりで母親を介護しながら診療所に来院してくれていた息子さんにお会いしました。「母は昨年の晩秋に亡くなりました」と彼は報告してくれました。あなたの努力、献身は誰よりもボクが知っています。これからは自身のために生きてくださいね。


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