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ものわすれブログ

ゆれる気持ち(8)歯科への思い


 昭和50年の事でした。高校生活を終え、大阪と京都の間に教養科がある大阪歯科大学に入学しました。ちょうどベトナム戦争が終焉を迎えるころ、「これからどんな世界が待っているのか」と期待半分、不安いっぱいで大学生活が始まりました。まさかこの先、6年で卒業するはずの歯科大学を、2回休学(腎臓を病んで:留年です)で8年かかり、関西医大に再入学するために1年浪人生活を送り…、苦難と挫折のとんでもない将来が待っていることなど考えもしませんでしたが…。

 歯科医になるためには6年生の時に1年間の歯科大学病院での実習が必要でした。各科をまわりながら考えたのですが、ボクは歯科医として歯を削るのがきわめて下手でした。「技術は努力で」とは思いましたが、到底自分に向いているとは思えません。口腔外科といって口の中にできたがんや骨折を治す専門家になる道もありましたが、歯を削るのが不得意なボクが手術に向いているはずもありません。

 そのうちに自分には2つの道があると感じるようになりました。

 ひとつは口腔(こうくう)心身症、もう一つは摂食嚥下、この2つの領域です。口腔とは口の中やその領域を指す言葉ですが、そこにいろいろな(ストレスやメンタル領域の)課題が出てきます。「いつまでたっても口の中が痛い」と訴える患者さんをいくら診察しても悪いところが見つからないのに症状が続き、自分ではストレスと気づかずに、そのストレスからいろいろな症状を訴えて検査をしても体には何も変化がない…、そのような口腔心身症の治療はボクを夢中にさせてくれましたが、35年前のことです。あまり一般的ではありませんでした。

 もうひとつは「寝たきり」や「認知症」のために「嚥下(えんげ):飲みこみのこと」がうまくいかない人の診療をすることです。今では新オレンジプランという厚労省の方針で、とても大切であることが再認識されています。認知症が進んでくると飲み込むときに食べたものが気管に入ってむせやすくなることや、普段の唾液が口の中にいつもある雑菌(病原性はないけれどばい菌です)といっしょにいつも何か気管に垂れ込んでしまう形の肺炎、誤嚥性肺炎が多くなります。これこそ自分の領域だと思いましたが、やはり35年前のことです。今のようにスーツケースのような形で歯を削る機会や吸い込む機械がセットされているような訪問歯科診療セットはなく、もし、こちらから患者さんの家に訪問診療するとなると、大きな車に歯科の治療イスをセットしたような大掛かりなものが必要でした。

 その後、これらの領域と最もつながりがある精神科医になって認知症の診療をしています。歯科心身症は手が回らなくなって日常診療はしていませんが、大阪歯科大学で講義をさせていただいています。歯科医師会、歯科衛生士会にも呼んでいただいて認知症研修も担当しています。今はもう揺らぐことはありません。自分の中から離れたと感じていた歯科、口腔ケアの世界が、35年の時こそかかりましたが認知症をキーワードにつながってきている気がします。

 歯科口腔ケアのみなさん、これからもよろしくお願いします~。


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