診療にて(6)カルテを書く
今でもボクのカルテは手書きです。これだけコンピュータが発達して、さすがに診療の保険請求まで手書きでしているわけではなりませんので、そちらは電子請求ですが、診察してカルテの記載は今でも手書きです。論文や原稿を書く機会も多く、すでにパソコンを使って文章を書き始めて20年たちましたので、カルテも…、と思うのですが、ボクはブラインドタッチができません。と、言うことはパソコンで字を書こうとすると画面を見続けなければならないのです。「もっと若い時にやっておけばよかった」と思いますが、時すでに遅し…。今からでも練習できるのでしょうが、それでもキーボードを押しながら面接する気になれなくて、あれこれと言い訳を言いながらこの先も手書きのカルテが続きそうです。
ここまで書けば何を言いたいか、りでしょう。診察の時に手書きのカルテなら相手の顔を見ながら診療すると(もっと積極的に言えばボクの目の前にすわった患者さんや家族の目を見つめれば、相手はオッサンに見つめられてキモいかもしれませんが)話をすることができます。
パソコンの画面を見ながらキーボードをたたき続ける診察はどうしても自分には合わない気がしているんです。
しかし時は地域包括ケアの時代です。患者さんや家族のプライバシーや守秘に注意しながらも、チーム医療、地域連携のことを考えれば、手書きではなく電子カルテの情報を提供できるようにするのが、これからの姿である、との思いもあります。う~ん、悩むところです。
もう一点、手書きで悩んでいるのが医療情報提供書です。これもボクは手書きです。読める字を手書きで書いて、相手の先生や介護職の皆さんにこちらの気持ちが伝わるように手書きにしています。こちらも時代遅れでデータの保存も紙なので時代遅れなのですが…。
さすがに介護保険の主治医意見書(介護保険の認定をするための医師の意見書)はパソコン入力にしています。こちらは診療が始まる前に誰もいない所でできます。相手の顔を見ながら書くわけではありませんし、相手の存在にこだわらなくても書けます。
患者さんが診察室に入ってこられるとき、多くの場合にはご家族と一緒に来られますが、その時から退室するまでが、とても大切な時間です。今日も若年性認症(血管性)の男性が奥さんと共に来院してくれました。もう5年、大阪を縦断して通い続けてくれる人です。その人の診察を終えて帰るときに、彼が「ここはこれからも話に来ますからね」と言ってくれました。面と向かって話をする時間を楽しみにしてくれていると奥さんは言ってくれました。彼とはいつも目と目を合わせて話ができ、それを受け入れてくれているからこそ、長年にわたる来院を「良し」と考えてくれるのでしょう。
急にやり方を変えなければならないほどの課題が出てくるまで、このままやってみることにします。しっかりと顔を見ながら、ね。
(2017年5月11日)、朝日新聞デジタル「アピタル」のコラムが更新されました。