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ものわすれブログ

能登:認知症の人と家族に

 どうか避難所にも電源が来ていて、このブログを読んでくださることを願っています。道路の寸断や水・食料の運搬の面で支援が難しいことを感じながら‥‥。

 ボクはこれまで1995年の阪神淡路大震災から、中越地震、能登沖地震、東日本大震災、熊本地震(熊本は現地の先生と行政のみなさんとのパソコンを通じての連携でした)などに関わってきました。阪神の頃に比べると各自治体のレスキューやDMATがいち早く駆けつけ、当時とは異なるスピードで支援が始まっています。一方、2004年頃の数年にわたって(平成の市町村合併がおこなわれる前の)能登に何年か断続的に通い、家族支援のプログラムを保健所と一緒に作ろうとした経験があります。能登がいかに高齢化し、道路や交通の面でも大変かを知っていますので、今回の地震による多大な影響を危惧しています。


 地震災害で建物の倒壊にあい、体のどこかを圧迫された人(認知症当事者に限らず介護家族も支援職も)は、医療と相談できる機会があれば、必ずそのことを伝えてください。医師や看護師の問診の時に、「倒れた家の柱に挟まれた」、「長時間、倒れた家具に圧しつけられた」といった事実を伝えることで、クラッシュシンドローム(症候群)を防ぐことができます。筋肉が圧迫されてつぶれた結果、カリウムやミオグロビンが出て心不全や腎臓を傷め、命にかかわる重篤な状態(クラッシュシンドローム)を防ぐことができますので、まず、その「事実(圧し潰された)」を伝えることが肝心です。


 認知症では光や音に敏感になります。普段とは異なる避難所での生活で昼夜リズムが乱れやすく、(限界があると思いますが)できれば昼も夜も煌々とライトが当たる場所ではなく、昼夜のリズムが保てる環境で、騒音から遠ざけてあげてください(そんな環境、いったいどこにあるんだとの声があると思いますが)。顔を覆って休むなど、光を避けるだけでも効果があります。


 トイレが不足しているため、どうしても介助が必要な認知症の人や高齢者は利用を控えがちで、しかもトイレの回数を減らすために水分補給をひかえてしまいますが、これこそ最も危険です。避難所でじっと動かずにいる事だけでも、血管内で小さな血液の塊(血栓)を作りやすくなります。飛行機が飛ぶ航空で気圧が低い状況で、長時間じっと動かずにいると「エコノミークラス症候群」が起きやすくなりますが、避難所でじっとしていると、このエコノミークラス症候群のように、地上でも小さな血栓ができ、脳の毛細血管を詰まらせてしまいます。血管性認知症の悪化にもつながりますので、(ヒートショックを避けるために)防寒に留意しながら15分は体を動かすようにしてください。


 食事がとれない場合が多くなります。今朝(1月5日)のテレビニュースでも、元旦から何かを口にするのは初めてだと、高齢者がインタビューにこたえていました。認知症も同様で、冬場でも1.5Lの水分を確保したいのですが、その水分のうち半分強は水やお茶からの飲んで得る水分、残りは食事から得ている水分です。食事ができないことは栄養面からも困りますが、水分が取れないことで、より脳内の微小脳梗塞(ラクナ梗塞)を増やして認知症の悪化につながることにも留意してください。


 日々のリズム付けも大切です。認知症、とくに側頭葉の変化がある場合には、いつも同じパターンでの生活リズムをくり返していると安定しますが、普段とは異なる行動をすると混乱しやすくなります。避難所での生活は「非日常」の極みです。前にも書いたように夜中まで人の声がうるさく、煌々と電気がついているようなところでは認知症のリズムが乱れやすくなります。毎日のリズムを作る生活に努めましょう。避難所のみんなとの連携が大切ですね。


 ボクは医師であり歯科医師でもありますので、特に口腔ケアは要注意だとこれまでの経験から感じています。水分がとりにくく、食事(からの水分)も得にくい避難生活では、口腔ケアがおろそかになりがちです。認知症があると「くちゅくちゅ、ペッ」のうがいができなくなる人も多く、つい、家族も当事者の口の中の状況を見落としてしまいがちです。

 これまでの自分の経験から、誤嚥性肺炎は避難所で起きやすくなりました。1:他人との会話・交流が少なくなるために口腔フレイル(かみ合わせや口の周りの筋肉、舌の筋肉の動きが悪くなること)が起きてかみ合わせや飲み込む筋力が低下し、ご縁につながりやすい。2:食事の時の誤嚥よりも、むしろ食事の後に「食べかす」が残り、唾液(普段から口の中にいる雑菌と一緒になって)といつの間にか気管から肺のほうに流れ込んでしまう誤嚥、しかもその時には咳が出ないため、静かに誤嚥してしまうための誤嚥性肺炎が最も多い、といった特徴があります。食事の後だけではなく、食事の間のケアが大切です。歯磨き粉がなくても簡単に歯ブラシで口の中をブラッシングするだけでも効果的です。歯ブラシがなくても、手をかまれないように注意しながら口の中をぬぐうだけでもOKです。


 今回の地震では地域の診療所が動けなくても、その地域の病院が対応しています。しかしそれでも避難所にいる認知症の人や家族にとって、最も困るのは「薬が手元にない」ことでしょう。認知症の場合には記憶力や判断力低下など、いわゆる認知症の中核症状を抑える薬(たとえばドネペジルやガランタミン、メマンチン、リバスチグミンといった薬は、地震のために定期的な服薬や貼付(貼るものとしてリバスチグミンや一部のドネペジル)が滞ったとしても、短期間なら気にすることはありません。不整脈の薬や高血圧、糖尿病などの薬は滞ってはいけませんが、認知症の薬の場合、数週間の途切れがあっても、(一般的には)急激には悪化しないと言えます。反面、行動面や精神面で妄想や幻覚が出ている場合に、少量の精神安定剤が出る場合がありますが、こちらは3~4日服薬が滞ると混乱の原因となる症状が出てきます。この面の不安定さは一気に認知症の悪化につながりますので、医療や看護に相談できることには、どういう薬を飲んでいたか伝えてください。


 さいごに家族のみなさんへのメッセージです。災害があると介護家族は「このために認知症が悪くなるのではないか」と心配します。でも、これは家族のせいではありません。平穏な日々に比べれば災害から逃れて避難所に移った生活は環境の変化の影響を受けやすい認知症の当事者の症状を悪化させてしまいます。しかしボクはこれまで「ロケーションが変わると本人が悪化する」との理由で、家から離れず在宅ケアを続けようとした介護家族をたくさん見てきました。大規模災害にあっては、たとえ在宅生活を続けたとしても生活インフラの面から、変化を避けることができません。在宅にこだわったあまり、当事者の生活が激変して悪化したこともたくさんありました。早めに避難所か(できれば福祉避難所)を見つけて移動し、新たな生活リズムを早く作りましょう。

 最も大切な事ですが、これほどの大災害では認知症の悪化を防ぎきれるものではありません。決して自分を責めず、介護者自身も過度なストレスから倒れないように留意してください。


 水も食料も乏しく、道路の寸断から救援の手が及ばない地域にいるみなさん、みんなで明日に向かって希望を失いことなく、日々を過ごしていきましょう。阪神淡路大震災の時のような混乱はありません。報道を見ても「やるべきこと」をひとつずつこなしていく大切さを、この国は四半世紀で学びました。

ボクはこれまでに経験した災害への支援から、避難所でもっとも大切な事は何かを知りました。それは絶望的な状況にあっても、人々が希望を失わないこと、そして「それでも笑顔を見せること」の大切さです。皆さんの希望につながる情報を、この先も伝えていきたいと思います。




 

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