ゆれる気持ち(5)ここは揺れへんで
いつも医者としての自分が揺れていることを、ここでは書いてきましたが、今日は「揺れないで」やって来たところについて書きます。
先日、遠方の往診に出かけた帰りの飛行機の中で、改めて自分の気持ちを考える時間がありました。「遠方まで飛行機で往診している」というのは、決してどの患者さんにもしてあげられることではありませんし、地域包括ケアを考えた時、いずれはその地域の医療につないであげることは明らかです。しかし「初めて」医療とがっちり組み合う介護の現場と連携して、「医介連携(介護と医療の連携)はこんなにも効果がある」ということを、この先のボクの研究テーマとしてもやっていこうと考え、創立65周年の記念も兼ねて、これまで数年、妻の介護のために全く手つかずにいた臨床現場での研究に着手しました。
この25年、研究者としてのテーマは、➀認知症の人と向かい合う家族のこころ、家族支援 ②認知症を主とした高齢者虐待を家族支援の視点から防ぐこと ③家族のための心理教育という心理療法 ④介護職の燃えつきを防ぐためのストレスケア これらのテーマを5~10年かけて研究者としてもやって来たつもりです。
しかし医介連携ということに関しては、この先ボクが引退するまで続けようと思っている大きなテーマです。それも理論的な学説ではなく、臨床を通して介護職のみなさんからの情報に基づいた医療を展開すること、ケアでカバーできることで少しでも薬剤の無駄な処方を減らせること、家族支援というボクの方法を活用することで、介護を受けている家族の理解が深まり、家族と介護職は医療(ボク)の仲立ちを受けて協力し合えること、これが人生のテーマであり、これまでの研究や実践を集大成したものになるはずです。
妻の母を介護して27年、自分の母は3年半そして妻の介護者として3年、この経験がボクを医師としてだけでなく、常に「介護家族」側に立たせてくれたことをこの先に生かすこと、これは自分にとって自然な流れです。
遠方なので月に1回しか行けません。それでも行ってそこで生活する入居者のみなさんのお顔を拝見し、介護職のみなさんからその人の日々の生活の様子をお聞きすることで、ボクは自分の医療の方向付けをすることができます。
前回だってそうです。ボクの処方を1か月続けていただいた男性の生活を見守ってくれた介護職から、薬の服用を昼と夜ではなく、朝と昼にすることで夕方からの不穏を改善できるのではないかというメッセージをもらうことができました。よし、これでやってみよう!
妻の介護では3年間にわたって夕食を作ってくれたホームヘルパーさんの存在がなければ、ボクの介護はとっくに破たんしていたことでしょう。最も大変だった2014年の夏、途方に暮れるボクに食事の支援をしてくれた介護職に救われました。2017年の秋、そのホームヘルパーさんに「食事面は自分たち(子どもの協力もあって)とやってみます」とお礼を込めて言うことができたのは、彼らがいつもボクの介護を支えてくれたからです。
医介連携はこの先のこの国、たとえば2025年に団塊の世代が後期高齢者になる事態を考えても、です。
介護にいろいろと助けられた医師であるボクのライフワークとして、この先実践的な試みを続けていきます。ケアと医療は車の両輪、この考えだけはゆれへんで!