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ものわすれブログ

日々を生きる(5)空から見る風景


 「君がこの先 歯科医師として使い物になるかどうか、私は不安でがない。内科医として体のことよりも、この先マジメに人生を送れるかどうかが心配だ」と、休学していた当時、歯科大でボクの休学・復学担当の内科医師に言われてから40年が経ちました。病気で休学したのに、なぜかボクを究極のサボりだと思っていたようです。

 医者として本当に人のためになっているか、常に考えるのは、その一言がボクのお尻を押してくれているからかな。常にそのことを自らに問いかけながら、気が付くと長い年月が経過していました。

 ボクは認知症の事や介護する人のこころをテーマにして、真面目に考えた文章ばかり出していますが、何も一日中、クソ真面目なことだけを考えているわけではありません。

 趣味もあります。アクリル絵の具で油絵を描くこと、クラシックのコンサートに行くこと(ただし、妻の食事のために昼間の公演だけですが)、オーディオファイルとして音楽を再生する趣味もあります。

 そして何よりも各地で講演すること、さまざまなところを訪れるのが何よりボクの「趣味」です。「講演会のために忙しく行き来して大変だろう」と思ってくださる方もおられると思いますが、実はこの「行ったり来たり」が大好きです。

 飛行機が街に近づき着陸する前に、空から眼下に街を見ると、いつも思うことがあります。自分も含めて日々を過ごしている世界が何とちっぽけなのだろうか、そしてそこで悶々としていることが何と「囚われた」日常なのかと自分をみつめる時間にもなります。

 もっとも好きなアプローチは北海道(新千歳)から能登半島沖を経て奈良から大阪(伊丹)に戻る経路です。揺れながら下降してきた飛行機の左手に座っていると、あべのハルカスが見え始めます。「あれ、阿倍野ってすぐ向こうに海があるのか」と改めて驚いていると、海からさほど離れていない所に大阪城が見え、梅田はあんなに河口から近いのかと驚いている間に伊丹空港に着く、その一瞬がとても楽しくて美しい瞬間です。

 羽田へのアプローチも右手に座っていると、幕張メッセからディズニーリゾートを経て降りて行くときがありますが、これも東京湾を見ながらなかなかの見ごたえがあります。東京や大阪は思ったよりも海に近いことに驚きながら、同時にそこで生活する(自分も含めた)人に思いを馳せます。

 関西医大の精神科医局に入ってすぐのころでした。自分の上に30人もの医局員がいて、どうあがいてもこの先に希望が持てないと感じた1991年の夏、新入医局員で夏休みが取れず、神戸のホテルオークラに家族一泊だけの近場旅行に行きました。子どもたちを遊ばせて寝かしつけたあと、ボクは夜の神戸の街を見下ろすホテルの部屋から、下の広場を見下ろしました。

 誰もいない夜の神戸をその人が歩く姿が見えたとき、不思議な感覚を覚えました。「いろいろ思い悩んでも、眼下に広がるこの光景の中の自分は、小さな世界の一人にすぎない」と感じたのです。「人生に悩んでいても、また別の見方もある」とも思えました。

 初めて感じる感覚です。「日ごろの悩みは大した問題ではなく、実直に粛々と日々を過ごすことが大切だ」と、誰かが語ってくれたような気がして、こころが軽くなりました。

 それ以来かな、ボクは時に自分を見直すために空の上に自分を置いて、こだわりにとらわれていないかを確認することが、趣味というか(人生を俯瞰するというか…)大切な行動になりました。この感覚、大切だと思いますョ、ボクはこれで楽しく毎日をコントロールできるのですから。

ボクを心配してくれた先生、あなたの期待に沿える医者にボクはなれましたか?


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