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ものわすれブログ

診療にて(7)診療情報の提供


 患者さんとボクとの関係は、当然ながら「人と人との関係」です。言い換えれば出会いと別れがあります。これはいかなる医療機関とも、そして社会生活をする人であればだれにでも当てはまることでしょう。でも、認知症の場合にはちょっと異なる点があるかもしれません。一般的なケガ、例えば骨折をした場合などは、医療機関と出合って受診し、そこで医師と出会い、診断を受けて治療方針が決まればケガが治る時期を待って別れ・・・・と、頻繁に出会いと別れをくり返す受診形態になります。

 認知症は中核症状としての「ものわすれ」や判断力の低下などとともに行動・心理症状(BPSD)が出るため、当事者や家族、地域の人にもマイナスのイメージを伴うことがあります。しかもマンションなら「下の階に住むうちに風呂水を溢れさせないか」、「火を出さないか」など、「迷惑なことをしないか」という偏見の目で見られる人も多いのが現状です。本人の人権を守り、長い通院期間を通して、その人に「今、できること」を見出していけば、その人に対して周囲の者が過剰な偏見を持つことを防げるはずです。しかしその偏見をなくす発言をする人がいないとしたら、どうでしょう?

 ボクらはそのためにいると思っています。診療所の付近には一人暮らしで認知症を持っている人がたくさん住んでいます。前にも書いたようにボクの診療所は実家にありますので、その地で学び、育ったボクは友人の親御さんを診療していたり、親友の奥さんが認知症になっているだけでなく、かつては天ぷらそばを出前してくれた、あのおじちゃんが認知症になり、ひとり暮らしをしている姿を日々、目にします。

 誰もその人のことを伝える人がいないなら、認知症の医者としてかかわったボクが内科かかりつけ医の先生や、地域包括支援センターに、その人に代わって情報を伝えなければなりません。いわゆる、代弁です。その人のプライバシーには特に注意しながら、かかりつけ医の先生には「たとえ認知症があっても、この人のこういった脳の変化から考えれば、これこれが要注意のポイントです。でも、この人はまだ前頭葉がしっかりしているので、こういった面は問題ないと思います。」ってね。さびしく日々を過ごすことがないように、地域包括支援センターやケアマネジャー、ホームヘルパーにも(守秘をもって)情報提供をします。

 情報提供書は全て手書きです。できる限りしっかりと読める字を書いて(笑)、こちらの気持ちが相手の先生や介護職のみなさんに届きますように。

 嬉しいことに初診患者さんのほぼ全員がボクの診療を受けることを希望してくれて、しかもその受診を「かかりつけ医」の先生が紹介状として書いてくださいます。そしてこちらも返事をお返しすると、そこには診療所同士の連携や、診療所と事業所との連携が生まれます。

 そんなふうにして25年、たとえ返事が返ってこなくても診療情報提供書は相手の医療機関に送り続けました。

この人はね、たとえ認知症の診断がついたとしても、こんなことはできる人なんです。こんな点は心配しなくてもいいんです。前頭葉の自負心はしっかりと残っている人ですから、本人が幼稚だと思うサービスは受けません・・・・・。

 代弁を通して「その人らしさ」を伝え続ける情報提供書はとても大切なメッセージなのです。


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