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ものわすれブログ

診療にて(2)迷う日々


 あ、今回の話は、ボクが道に迷うようになったという内容ではありません。診察してどういった治療方針にするか、日々迷っているという話です。「また、そんなこと書いて!」と思う人もいるとは思いますが、目の前に座った人だけでなく、家族の思いや地域の人々の思いと向き合いながら、自分の役割を考える医療が大切だと思っています。

 ボクも地域の開業はしていますが、かかりつけ医としてではなく専門医として日々を送っていますから、(他科の)多くの先生と連携しています。また、これも数えきれないほどのケアマネジャーさんや地域包括支援センターの職員のみなさん、そしてケアマネジャーさん、ホームヘルパーさんと連携、協力しながらみんなに助けられています。とくに認知症という病気は、早期からの医療のかかわりが大切です。20年前ならいざ知らず、今では早く見つけることができれば、対応も早くなり、その人の悪化が遅くなるところまでわかってきました。もちろん、早期診断が早期絶望にならないようにすることこそ、医療が考えなければならない点ですが、生活面への視点も欠かせません。介護や福祉の人々と連携して、日々の生活状況を教えてもらい、家族からの気持ちを聞くことで診療内容が適切になるからです。「この人の日々の生活はどうしているのかな」と迷う毎日です。

 これまで別の医療機関を受診していた人が、本人あるいは家族、そして介護職の勧めなどで医療機関を変えてうちの診療所を受診するとき、その人の病名が「このままでいいのかな」と迷うときもあります。かかりつけ医の先生が認知症と同じ意味のつもりで「アルツハイマー」と病名をつけていて、実際に来院されてみると血管性認知症の症状を出しているとき、「アルツハイマーの薬は今のところやめましょう」というボクの申し出に、認知症の人や家族が「えっ、薬、飲まなくていいのですか。これまでは飲んでいたのにやめて良いのですか?」と、当然、疑問が出てきます。さあ、その時にどのように説明するか、ここが迷うところです。本人と家族の気持ちに沿った上で、正確な治療方針をしっかりと説明することが大切です。

 もう一つ迷うのが認知症の人をめぐって介護家族の意見が対立するときです。介護を熱心にしてあげたいと願う気持ちは同じでも、その方法論が異なることはよくあることです。きょうだいがそれぞれお母さんへのベストな介護を考えたとしても、息子さんが「可能な限り在宅でケアする」というのに対して、娘さんは「適切な介護が受けられる施設に入所してもらいたい」と意見が別れるとき、さて、ボクはこの二人が安心できる解決策を出せるか悩みになやみます。

 年度末を迎え、みんなが新しい生活を迎えるときは、これまでの介護体制が変わる時期でもあります。認知症の人も介護家族も介護職もみな自律神経が不安定なこの時期にこそ、人生の選択を求められるかもしれません。そんな時、介護者であるあなたが、迷っても困ってもかまいません。迷いながら泣きながら・・・、それでも投げ出すことなく介護の日々が続けられるなら、その「継続」は本当の強さです。


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