特別メッセージ 「ごめんね苫小牧」
- 松本一生
- 2016年12月13日
- 読了時間: 3分
平成4年に父が亡くなり開業医兼大学院生となったころ、世間にはまだそれほど多くの精神科医がいませんでしたので、開業2年目からさまざまな講演を依頼されてきました。その数がこの12月で2050回を超えたのですが、一昨日の日曜日にえらいことをしでかしてしまいました。
これまで一度も自分の事情で講演会に行けないことはなく、全ての講演には応えてきました。一度だけ10年ほど前に台風のために市民講演が中止になったことがありましたが、それ以外はすべてこなしてきました。
ところが日曜日の朝8時15分に大阪(伊丹)空港を発ち、苫小牧の介護職を対象とした講演会場を目指し北海道が近づいてきたころ、機内アナウンスで機長の声が流れてきました。「新千歳空港は朝からも雪が積もり50センチになるため、除雪しても着陸不可能です。伊丹に戻ります」、と。
じょ、冗談じゃない。11時半から講演が入っているのに。厳寒の2月に中標津の吹雪の中を着陸したこともあったのに、でも自然の力には抗うことができません。
結局、その日の帰りの便も欠航になっていましたので、万一、新千歳に行けたとしても帰ることができず、妻の夕食には間に合わなかったわけです。月曜夜のニュースでも週末には1000人ほどの人が新千歳空港で夜を明かした様子が出ていましたから、この時期の豪雪はとてつもない事態だったのでしょう。
しかし最も残念で申し訳ないのは、主催者の皆さんと講演のために豪雪の中をわざわざ来てくださったのに、講演30分前に「中止」と言われて帰路につかれた多くの専門職のみなさんに対してです。
かつてある学会の教育講演を4月におこなったとき、(事務局が参加者予想を間違え)
会場に参加者が多くなりすぎて入りきれず、お断りをせざるを得なかったことがありました。その時にある参加者が「なかなか研修に参加できる時間がなくて、やっと参加できると思ったら定員をオーバーするなんて…」と絶句しながら東京から埼玉まで戻って行かれたことがあり、その後ろ姿に大変気の毒な思いをしました。
今回は並大抵の雪ではない中をやっと会場まで来ていただいた方々に対して、あろうことか講師がつかないという、なんとも情けないことをしてしまいました。
先のブログで講演会は現場の臨床、論文や本の執筆と並んで3つ目の臨床であると書きました。今でもそう思って、妻の介護に差し支えない限りは出かけていくことにしています。それだけに今回のことは断腸の思いです。前の日に札幌入りしていればこんなことにはならなかったのに。でも、前泊でボクが家を空けると妻が不安になって無理だし…、介護家族が講演をするという難題には常にこのような危険性があるのでしょう。
苫小牧の研修会に予約されたみなさん、雪が降らない時期に手弁当で行きます。
その時まで、ごめんね苫小牧。
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