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自分の役割(6)あの人から私が消えゆく哀しみ

  • 執筆者の写真: 松本一生
    松本一生
  • 2016年10月10日
  • 読了時間: 3分

 今回は認知症の人自身が自らのものわすれに気づいていないときに、家族の気持ちをどうやって支えるかについて考えたいと思います。ある程度に認知症の症状が出ているにもかかわらず、「自分は病気などではない」と医療機関受診を拒む場合、家族は途方にくれます。「早く受診して治ってもらわなければ、どんどん悪くなる」と、家族の気持ちが焦ります。しかしそのような時に無理やり受診してしまうと、その後、本人が「私を無理に受診させた」などと、その後の通院を拒否されることもあり、判断に迷います。家族には受診のタイミングをじっと待ちながらチャンスをうかがうことが求められます。

 かつてアルツハイマー型認知症の夫を介護する妻から聞いた言葉があります。「先生、うちの夫は自分のものわすれが自覚できていないので私はいつも介護に苦労しています。デイサービスを利用してもらおうとしても『イヤ』のひとことでどこにも行ってくれません。薬だってそうです。どこも悪くないから飲まない、と言われればそれ以上は無理強いできません」でも、その奥さんのつらさは介護の大変さだけではなかったのです。 彼女は毎回の受診でボクに訴えてきました。

 「先生、夫は自分から記憶が抜けていく悲しみを感じないタイプなので、自らのものわすれに悩む人たちより本人は苦悩がないかもしれませんね。でも、私は毎日、毎日、思うんです。これまで夫婦としてやってきたあの人の記憶から、私という人間がいたことが抜け落ちていくことが怖い。私にはあの人から私が消えゆく哀しみと向き合っている毎日です」、と。

『あの人から私が消えゆく哀しみ』と家族は向き合います。

 ここに介護者・家族の哀しみがあります。私たちが認知症の人のケアや支援を行うとき、認知症の人とともに家族支援が必要であるとよく言われますが、実際にどうやって家族を支援するか、迷うことも多いかと思います。自らが認知症に悩む人の気持ちによりそうことも大切、そして介護者である自分が理解されないことに悩む家族の気持ちに寄り添えてこそ、認知症を地域で支えることができます。

少しずつ変化してゆく大切な人の具合に、家族だからこそ気づき、家族ゆえ大切な人のこころが傷ついて症状が悪化するのではないかと思い、そのことを指摘できないでいるとすれば、その哀しみに共感してくれる人が周りにいることがとても大きな力になります。ボクも会員にしてもらっている(公社)認知症の人と家族の会をはじめ各地には家族会があります。同じ体験をしたものが共感の中でお互いを支え合うことから、絶望の中に光を見出す介護者もいます。日々泣きながら介護する人が、ほんの少し笑顔になれる瞬間があれば、それは家族のこころの燃えつきを防ぐ大きな力になります。


 
 
 

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