自分の役割 (4)診察のあした
- 松本一生
- 2016年9月20日
- 読了時間: 3分
「今日、初診で来られたあの人は緊張していたな」と思うことがよくあります。当たり前でしょうね、初めて医者にかかるときには誰だって緊張しますから。認知症とひとくくりで言われても様々な形のものがあるのは、みなさんも聞かれたことがあるでしょう。例えばアルツハイマー型ならどういった特徴があるか、血管性認知症はどう異なるのか、などと病気の形によって出てくる症状や経過に違いがあるのは新聞やテレビ、ラジオの報道でご存知かもしれませんね。
ボクも専門医として「診断」します。どういった種類の認知症かをしっかりと見極めるために大きく分けると3つの検査が中心です。まず頭部のMRIをはじめとする画像診断です。これによって脳の変化の具合を見ていくことで、その人の「不都合な状態」を見つけることができます。言葉を話すところの脳が変化していれば、「あ、この人は話したくても言葉が出てこないつらさがあるだろう」と推察できます。
次に各種の検査です。テストをしてもらっておおよその点数から診断をすすめます。でもね、この時にテストを受けるご本人が緊張しすぎると正しいレベルがわかりませんので、1回だけで結論付けるのは控えています。
3つ目は(これがもっとも大切ですが)目の前に「患者さん」として座っている人の症状やしぐさを通して、その人を診る「症候学的検査」です。医学用語は難しいのが多いけれど…、簡単に言うと「その人」と話をし、お会いした印象から診断を付けることです。この3つがしっかりとイメージできれば自分としても「診断がついた」と思うのですが、時には勘違いの診断もあります。後で病名が変わることもあり、そんな時には患者さんとご家族にそのことをしっかりとお話しするようにしています。
日々の診療が保険診療なので、保険病名をつけますが、実際の現場では単にアルツハイマー、血管性と二者択一のように病名がつくわけではありません。糖尿病が背景にある人が脳の血管にも小さな梗塞をくり返し、血糖を下げるためにインスリンが使われて脳にたまるカス(アミロイドと言います)が増えた結果、アルツハイマー型認知症にもなっているといった、複合型のような人もたくさんおられます。
そのような病像の全体を見渡しながら、「あなたの場合にはどういう傾向があります」とか、「あなたはこの面では大丈夫です」とか、病気と向き合うときの方向性を見つけ、それをその人や家族とともに相談することで、「暗闇の中を孤独に歩く」のではなく、同伴する者(伴走者)になることがボクの役割の一つです。
当初、とても緊張していたその人が、少なくともボクの診療を受けて「これから通院を始めよう」と思うとき、その人のこころに少し希望が見えるように手伝えるなら、それはこの仕事の最も大切な役割なのだと思います。専門医として診断だけではなく、その後につながる光があれば(たとえ微かなものであっても)、その人や家族に伝え続ける役割がボクにはありますから、ね。。
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