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ものわすれブログ

キレそうになるあなたに

 ボクの専門は認知症、そして本人や家族を支援するためのメンタル面のリハビリテーションです。心理教育プログラムと言いますが、わかりやすく説明すると、何人かの介護家族が一堂に会して「家族会」のようなプログラムを展開し、ボクは最初の情報提供のときに講師となり、その後の家族同士の交流会にも同席しておよそ2時間の交流会をします。介護家族だけではなく、当事者同士の支え合いを目指すプログラムなどもあり、これまでに平成(令和ではありません)5年からずっと継続してきました。ここ数年はしかし、地域にもかなり「家族支援プログラム」が浸透してきたこともあって、診療所を受診する人や家族だけの「診療所内の集会」になることを避け、地域で開催されるプログラムを紹介すことで院内開催は見合わせ、診療所では「個別の心理教育」として、診療の場で当事者、家族を対象とした心理教育プログラムを続けていました。


 認知症に対する心理教育として院内では多くの試みを重ねてきました。当事者と家族が合同で参加するプログラム(平成7年)、認知症の妻を介護する夫のために「妻を介護するおっさんの会(平成8年)、当事者だけのプログラム、当事者によるボランティアチーム「明日にかける橋」(平成19年)など、さまざまな取り組みを続けてきました。

 しかし2020年、コロナ禍がはじまり、地域のプログラムがほぼ全て中止となり、介護のつらさを同じ立場の人と分かち合い、共感のなかで支え合う機会が激減しました。日々の診療の中でも「ああ、この介護者はボクのような医者とだけではなく、同じ立場の介護者同士で気持ちを分かち合う方が良いのにな~」などと思うほど、介護家族が追い込まれてしまった3年間でした。


 そこで「今、ふたたび院内でプログラムをおこなう必要性」から、ボクは新しい家族会(心理教育プログラム)を始めました。それが「認知症ケアでキレそうになるあなたのためのプログラム」です。土曜日の午後に数組の介護家族に集まってもらい、認知症のケアをする日々の中で、なぜ、当初は善意にあふれ「この人のために」と思っていたにもかかわらず、介護でキレそうになるのか、といった課題や、自分で介護しきれないからこそ、介護施設のプロに任せたはずなのに、どうして介護職に無理難題を要求してしまうのか、といった課題について情報提供し、その後は集まった家族同士が自分の気持ちを開示しあう会を作りました。


 ここ数年で介護現場への家族からのハラスメントが大きな問題になり、介護職を守るために介護現場ではどういった対応が求まられているか、大きく取り上げられています。少数ですが大きな課題を持つモンスター家族がいることも事実ですから、そういった無理難題を押し付けてくる家族から介護職を守ることの大切さとともに、この閉塞した環境の中で追い詰められやすくなっている家族介護者に対する支援が不可欠なのです。

 

 ボク自身、2014年秋から始まった妻の介護で、この足掛け10年の間に何度もキレそうになる自分を見てきました。介護者のみなさん、あなた方は孤独の中で家族の認知症のケアを続けてきました。怒りのやり場に戸惑う自分をコントロールできない事もあるでしょう。そして介護職のみなさん、あなた達は「人のためになる自分」に生きがいを見出す人です。そんな熱心で心優しいあなたが無理難題で傷つかないために、ボクは両方の立場の思い、気持ちを経験してきました。だからこそ、この「キレそうな人」へのプログラムを、静かにしっかりと続けていきたいと考えています。うちの診療所が(連携型)認知症疾患医療センターになったからこそ、地域に還元しなければならない役割だと思っています。




 


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