• 松本一生

ボクのこだわり(9)セカンドオピニオン


 先日の事です。もう何年も首の後ろの不快感を訴え、大病院や大学病院での精密検査をくり返してきた軽度認知症の女性と、その夫が来院されました。ご主人が言いにくそうに「先生、もうし訳ないけれど、妻の知人が○○の脳外科に行ったらどうかと教えてくれたので、そちらにかかっても良いですか?」と恐る恐る聞いてこられました。

 これまで、いくつもの大病院での精密検査でも何も出なかったことは事実です。そして彼女が「物忘れ」は軽いものの、その分、不安感や心気的(どこかに悪いところがあると感じてしまうこと)になってしまっていて、いわゆるドクターショッピングをくり返してきたことも事実です。

 ボクはそのご夫婦とずいぶん協力してきました。これまで5回を超える他院の精密検査のための紹介状を書きましたが、ボク自身はセカンドオピニオンには大賛成で、誰か別の医師の診断や考え方を知って、患者さんや家族が納得いく医療を受けるべきだと常々考えているからです。

 25年前には状況が全く異なっていました。かつて当時はまだ珍しかったセカンドオピニオンを求めてこられた患者さんと家族に「紹介状、喜んで書きますョ~」、「それでしっかりと診断が間違っていないかわかれば安心ですもんね~」と(実はボクも別の先生の意見を聞くことで安心できると思い)、喜んでいたら、当時の大学病院での先輩から「お前は医者としてのプライドがないのか、大学病院が自信を持って診断しなくてどうする!」と叱られた記憶があります。

 今でも気持ちは変わっていません。患者さんは自分の体やこころを託すのですから、ひとつの考え方だけではなく、いくつもの視点から「この先」を決定すること、その決定は言われて行うものではなく、自らの意思、(自分で判断できない場合には)家族や本当に大切な人の意見も聞いて行うものだとボクは信じています。だって、その人の代わりにボクが病気を引き受けられるものではなく、その人に代わって人生を生きてあげられませんから、ね。

 そのご夫婦に、ボクはこれまでずいぶん助けられてきました。理由はボクが医者として根源にかかわる信頼感を持ってくれているからです。ご夫婦はどこの医療機関に紹介しても、ある時間が経過するとふたたびボクの診療所に戻ってこられます。

「どこか、適切に治療してくれるところが見つかれば、そこで良い人生を送れるのに…」とボクは思っていますが、何度も戻ってこられました。今回はうまくいくと良いな~。

 ボクのところに「先生、あそこもあかんかったわ~。また、頼むわ~」と言ってくれる、この言葉を聞くと、かつて認知症の当事者から「あんたにはボクは治せないわ、だけど付き合える相手だから、ここに来つづけるわ」といってくれた患者さんの事を思い出します

 この領域は完治がないこれど…、その分、何度でも帰ってこられればお付き合いするつもりです。こんな診療体制にしているから、この26年の間に少しずつ患者さんが増えてしまったうえに、平均して10年のお付き合いになります。もはや診療とは言えず、お一人当たりの通院期間が平均で10年になってしまい、ともに人生を送っているようなものです。その分、新患さんの初診までの待ち時間が長くなってしまうんですよね。 反省しているけど…。


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